【今回の取材地】
面積:90.76㎢
総人口:6,631人
人口密度:73.1人/㎢
隣接自治体:利島村など
(2024年2月1日時点)
「伊豆大島の楽しみ方発見サイト『伊豆大島ナビ』(以下、伊豆大島ナビ)」をご存じだろうか? 伊豆大島の観光情報や島で暮らす人々のインタビュー記事が掲載されている本サイト。伊豆大島への旅行を検討されたことのある方なら一度は目にしたことがあるのではないだろうか?
このサイトを運営し、伊豆大島のまちづくりを推進する千葉努さんにインタビューをした。
クリエイティブ×地域活性化の可能性
「辺境の地」と呼ばれるような、非日常を感じられる場所に憧れを持っていた千葉さん。奥さんの出身である大島を訪れた際に、この島の豊かさ・面白さにすっかり惚れ込み、移住を決意した。
もともとデザイナーとして仕事をしていた千葉さん。趣味であった離島巡りを通して、「デザインの可能性」を感じていたことも大島への移住のきっかけになったという。例えば、瀬戸内地域。3年に一度「瀬戸内国際芸術祭」が開催されるようになったことをきっかけに、展示の常設が行われたり、デザイン性の高いお土産が販売されるようになった。これを見た千葉さんは、「地方にデザインがプラスされることで、産業にとってもプラスになるという可能性を見せてくれた気がしたんです」と、クリエイティブ×地域活性化の掛け算にひらめいた。
千葉さんの知人にも、クリエイティブの力を使ってまちづくりを推進している方がいる。栃木県宇都宮市で建築からコミュニティづくりまで行い、何もなかった場所に色々な人が集まる空間デザインを行ったそうだ。高齢化や後継者不足に悩まされ、衰退してしまった商店街から一転、賃料3.5倍増と言われるほどの地域活性化に貢献したそうである。これを見た千葉さんは、「地方の可能性」というのを改めて感じたという。
千葉さんの運営するローカルメディア「東京都離島区」
「移住者」から、まちのキーマンへ
クリエイティブの力で地方を活性化させることへの面白さに気づいた千葉さんは、大島でも同じように活性化に取り組みたいと考えた。しかし、移住当初は知り合いもおらず、島の活性化をしようにも、何が課題で、観光PRするにも何を打ち出していくべきかが分からなかった。
「今の自分があるのは商工会のおかげと言えると思っています」と、千葉さん。大島に移住してからは、大島町商工会に従事。地域の方の声が聞けたり、地域の人と知り合うきっかけづくりとなったこの選択は、大きなターニングポイントとなったようだ。
千葉さんが商工会に入所したのは、まちにとっても転機となった。
大島町役場の中村大樹さんは「千葉さんは、大島のキーパーソンです。商工会としてまちの事業を推進してくれましたし、人柄もいいですね。小さい島だからこそ、信頼が大事なのですが、物腰も柔らかく、なんでも引き受けてくれるのは助かっています」と、話してくれた。よくも悪くも、穏やかな人が多い大島にとって、千葉さんが島内外の人を巻き込んで新しい事業を推進してくれるのは島の経済にとっても大きな影響があるようであった。
ロゴ・建築デザインを手掛け、2023年5月に開業した「Izu-Oshima Co-Working Lab WELAGO」では、テレワークをする人が集まっている
大島から始めるコミュニティづくり
現在千葉さんは、「東京都離島区」を運営し、ローカルメディアとして情報発信やワークショップの開催を行っている。もともと、東京都が運営する「東京宝島事業」というものがあり、東京の各離島からキーマンが集まって、話し合う場が設けられていた。
会は定期開催され、盛り上がっているようにも見えたが、島同士のつながりはこの東京宝島事業に留まっていたようである。会を通じて他の島の面白い取り組みや出会いに恵まれた千葉さんは、「なんとかこの熱量を広げていきたい」と、同じ志を持つ仲間と一緒に「東京都離島区」を立ち上げた。
東京都離島区は、ローカルメディアとして運営することをベースに、ワークショップを開催したり、大島に限らず、東京の離島全体を巻き込んだコミュニティづくりに挑戦している。今後は、ここから得られた情報や人脈をきっかけに、新しい価値の提供につながるのではないかと千葉さんは考えている。
千葉さんの「コミュニティづくり」の挑戦は、まだまだ広がっている。
2023年5月には、株式会社フロンティアコンサルティングがコワーキングスペース「Izu-Oshima Co-Working Lab WELAGO」を開設。「コミュニティを育てたい」という想いをもとに、ロゴをはじめとしたグラフィックデザインやWEBサイトを千葉さんが担当した。今後島で生活したいと考えている人や、島で事業を興したいと考えている人をつなぐ場所にしたいという願いを込めている。
「フューチャーセンターじゃないですけど、色んな情報とか人が集まって、新しい何かが生まれる場所を作りたいと思っていたんです。フロンティアコンサルティングさんと協業してこのコワーキングスペースをつくったのも、そういう意図があります。実証実験の場所として利用してもらえるとも思うので、一緒に検証したりブレストできたらいいですね」
目指すは「島で循環できるシステムづくり」
千葉さんがこれから取り組みたいと考えているのは「島で循環できるシステムづくり」。
「場所もしかり、アセットもしかり、島にあるモノを使ってビジネスをしていきたいと考えています。その一環として、コワーキングスペースの土地を活用して、スタッフが畑を始めました。そこでできた作物は、地元の方に配布するもよし、ワーケーションとしてコワーキングスペースで働きつつ、農業に触れてもらうこともできそうだと構想しています」
この活動を通し、大島の産業比率のバランスを整えることで「島で循環できるシステムづくり」を達成できるのではないかと千葉さんは言う。大島で第3次産業に従事するのは、労働人口の70%以上だが、生活を直接支える第1次産業に従事するのは10%以下。この背景には、昭和40年代の離島ブームにより、効率的に稼げる第3次産業に移行したことや、高齢化による人口減少がある。簡単に解決できる課題ではないのかもしれないが、この産業比率を変えないことには島で生活し続けるというのは難しいと千葉さんは言う。
一方で、「チャンスはたくさんあるんです」とも。
「例えば、持ち主が高齢になり手を付けられなくなってしまった農作地やもともと手つかずの土地も存在します。そこと、農業に興味のある企業や人を結び付け、新しい事業もできるのではないかと考えています。そういった意味では、必ずしも島民でなくてもよく、普段は外に住んでいるけど、収穫期になると大島にやってくる。そういう人が日本全国、世界中にいるという仕組みを創ることができたら面白いのではないかと思うんです」
クリエイティブ×地域活性化の掛け算で大島のまちづくりを始めた千葉さん。“大島のコミュニティビルダー”という言葉がぴったりな方だと取材を通して思った。
「単純に、仲間と一緒にワクワクする仕掛けを作るのが好きなんです。色んな仕掛けをしていくと、面白いと思って人がだんだん集まってきて、また仲間が増えて、更に面白い事業につなげていくという連鎖が楽しいです」
千葉さんを中心に大島で広がるまちづくりの輪が、今後どんな連鎖を続けていくのか楽しみだ。
参考文献
・東京都大島町(2023年10月12日参照)
https://www.town.oshima.tokyo.jp/uploaded/attachment/1369.pdf