試みの交差点
更新日:2024年09月19日

かすみがうら市の地域資源で実現する、持続可能な社会

ライター:
ibaraki-kasumigauura

【今回の取材地】

面積:156.60㎡
総人口:39,207人
人口密度:250人/㎢
隣接自治体:石岡市、土浦市など
(2023年12月1日時点)

年間を通じてさまざまな果物が栽培・収穫される、茨城県かすみがうら市。天候など外的要因により、表面に傷がついたり十分な大きさに育たなかったりする“規格外品”を対象に、フードロス削減プロジェクトを実施。産学官が連携して、かすみがうら市の規格外の梨をピューレにし、販売までを行う様子を取材した。

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「果樹のまち」が抱える課題と解決への一歩

レンコンの生産量日本一を誇る茨城県の中でも、有数の生産地として知られるかすみがうら市だが、年間を通じてさまざまな果樹も収穫することができる。その一つとして、梨の生産が盛んで、まちの至るところで梨がなっているのを目にする。コントロールすることが難しい自然を相手に、農家の方々が手塩にかけて育てる梨は芳醇でみずみずしい。しかし、梨園のすべての梨を完璧に育てることは難しく、みつ症(みず症)や外側に傷がついてしまい、規格外品となってしまう場合がある。その年の天候や土の状態によって規格外品が生まれる割合は異なるが、生産したうち大体1割が市場に出回らず、フードロスになっているといわれている。

かすみがうら市は梨のフードロスに目を付け、梨ピューレプロジェクトを始動。これまで廃棄されていた規格外の梨を市内の農家さんから集め、梨ピューレへ加工し販売することで、規格外の梨の価値向上へ寄与することを目的にしている。

今回このプロジェクトは、産学官連携で推進されており、かすみがうら市役所の高井淳さん(産業経済部理事)は「このプロジェクトは誰かが欠けてしまうと成り立たないものです。参加してくださるすべての方の協力があるからこそ、成功するものと思っています」という。実際、規格外梨を農家さんのもとから加工工場へ運ぶ際には、市内事業者の既存配送ルートを活用し、コスト・CO2削減を行っている。梨ピューレを販売する際のパッケージは市内の中学生がデザインし、大学生がアレンジして完成した。PRのために、都内で腕を振るうシェフが梨ピューレを使ったレシピを考案し、実際にその料理やドリンクは、キッチンカーで市内外問わずさまざまなところで提供されている。また、市内で活動する地域おこし協力隊のメンバーも、販売プロモーションに取り組むなど、多くの方がかすみがうら市のフードロス削減プロジェクトに参画し、一丸となって推進してきた。

「かすみがうら市では、果樹を活用したフードロス削減を推進する『かすみがうらフルーツ隊』という学生団体がある。そこに所属する大学生が今回梨ピューレの魅力を伝えるため、myProductさんのご協力の元、ポスターを作成してくれた。大学生をインターン生として採用いただき、アドバイスをいただいたことで、魅力あるポスターが完成したことに感謝しています」と、高井さん。

梨ピューレは完成し、販売も開始したが、これから重要になるのは「いかに多くの方に知っていただくか」。かすみがうら市は、企業だけでなく、地元の学生の力も借りて今回のプロジェクトを成功へと推し進める。

梨ピューレのPRには大学生も参画し、ポスターの制作を行う

フードロス削減事業を、まちの代名詞へ

「前例のない取り組みなので、試行錯誤しながら進める場面も多くありました。そのような中、農家さんから『次はこの品種でもピューレを作ってほしい』というお言葉や、中学校の先生からは『来年もぜひパッケージデザインをやらせてほしい』というお話をいただくことができました。今回限りではなく、継続した取り組みにしてほしいと、地元の方々の協力を得られていることが嬉しいです」

想定通りに事業が進まず、困難に直面する場面もあったという。しかし、多くの方々の協力をいただいて乗り越えることができ、とても価値のある取り組みだったと高井さんは振り返る。

次の目標として掲げているのは、梨だけではなく、「フードロス削減の取り組みを通じて、かすみがうら市で生産される素材(食材)のおいしさを提供し続ける」ということ。今回限りの取り組みにするのではなく、農家の皆さまも期待してくれている通り、この取り組みを平常化させ、かすみがうらの代名詞のようにしたいと計画している。

市が先導してまちを活性化させた事例の一つを、次につなげる。いつかは市が仲介しなくともフードロス削減事業が成り立ち、まちの活性化をけん引する存在になることを夢みて、かすみがうら市は地域課題にこれからも向き合い続ける。

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