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まちを拓く人 試みの交差点
更新日:2024年09月19日

河津町に吹く新しい風 #3|子育て世代の声に耳を傾けて目指す持続的な町の活性化

ライター:
shizuoka-kawadu

【今回の取材地】

面積:100.69㎡
総人口:6,366人
人口密度:63.2人/㎢
隣接自治体:下田市、伊豆市など
(2023年12月1日時点)

「高齢者と共に暮らす町づくり」という考え

高齢化社会が進む日本において、「高齢者も暮らしやすい町づくり」というのがキーワードになりそうだが、取材を進めていく中で、河津町では「子育て世代の支援」という言葉が目立った。この背景には、町が目指す「高齢者を支える町づくり」という姿があるようだ。

河津町の人口は6,728人 (2020年時点)。その40%ほどが65歳以上の高齢化社会である。「高齢者が増え、人口が減っていくのは仕方がないことではあります。ただ、大切なのはその社会をどう支えていくかだとと思うんです」と、河津町の岸町長は「高齢者を一緒に支えていく社会」とその「担い手」の必要性を示唆している

河津町長の岸重宏さん

働く世代が増えるように。そして、施策を施したこの一瞬だけ人が増えるのではなく、持続的に町が活気づくために、子育て世代に移住・定住してもらいたいと、河津町は強く願っている。そしてこの願いを実現するべく、河津町の子育てを支援する「河津町子ども・子育て会議」では、町民にアンケートを実施。そこでは、子供を一時的に預かってくれる施設や、雨の日でも子供が安心して遊べる場所が欲しいという声が上がっていた。この結果を受け、河津町はすぐに検討を開始。そして、2022年11月に子育て支援センター「かわづっこひろば」を開設。出来上がったこの施設は、まさに「町民の声をカタチに」ということを実現した施設だ

子供のため、そして子育て世代のために

子供の年齢に応じて部屋を分けるのではなく、あえてオープンスペースをメインに設計されたかわづっこひろば。

「子供が少なくなっているので、小さいころから交流の機会を作り、『地元のコミュニティ』を大切にしてほしいと思っています」と、かわづっこひろばを管理する河津町福祉介護課長兼かわづっこひろば館長の土屋さんは語っていた。

広い天井と温かみのある木工の遊具が印象的な「かわづっこひろば」

開園当初から季節の行事やお誕生日会を開催したり、子育てサークル「くれよんくらぶ」が活動したりしている。また、保健師による発育測定・育児相談も定期的に開催され、子育て世代へのサポートを行う舞台として、町を挙げてかわづっこひろばが活用されている。

広い天井に響き渡る子供たちの声を聞き、かわづっこひろばは、町が思い描く「コミュニティづくり」に必要な存在なんだと感じた。

「子供のためというのはもちろんのこと、子供を育てる親御さんのための施設にしたいと思っています」と岸町長は言う。土日も開館することで、平日は仕事で一緒に来られない親御さんにも利用してもらったり、急用で子供を預かってもらいたいという場合に対応してくれたりするのは、子育て世代にとって嬉しい話であろう。

出生数が減少し、人口は減少の一途を辿っていることは日本全国の共通課題だが、河津町も抱えるこの課題は顕著であると住民自身が感じている様だ。一方で、そのような課題があるからこそ、こうして町を挙げて子育て世代や、子供の成長をサポートし、充実した支援を提供したいと考えているようだ。

まだ開設したばかりのかわづっこひろばですが、利用した方からは好評の声が続々と上がっている。しかしその反面、利用者数という部分で見たときには想定通りには運営できていないようだ。特に、町民の声から生まれた「一時預かり事業」は、予測していたようには利用されていない。河津町は、子供だけでなく「子育て世代」の支援というところに着目しているからこそ、一時預かり事業をもっと利用してもらいたいと考えているようである。

一時預かり事業は、「保護者の依頼(用事やリフレッシュ)に応じて、主として昼間に乳幼児を一時的に預かる事業」として展開されている。「育児の息抜きも必要だと思います。そんなリフレッシュする時間がほしいときに気軽に使ってほしいです」と、土屋さんは言う。

河津町福祉介護課長の土屋さん

子供を増やすのは難しいと感じているからこそ、今以上に少子化が進行しないようにするにはどうするべきか。今いる子供たちを守っていくためには何ができるのか。小さな町で、町民の声を聞き入れやすいからこそ、そこを利点としながら町を活気づけたいと考えているようであった。

現状を変えるために、今あるもので何ができるのか今後のために、何が必要なのか

子供が少ないからこそ実現できる「充実したサポート」を提供できるようにすることが、今後のかわづっこひろばの課題と言えるだろう。そして、その課題を解決するためにも「『町民の声』を取り入れながら最適な運営方法を探していきたい」と土屋さんは言う。

「とにかく、気軽に使ってほしいです」

河津町は、より良い子育て環境を整えるためにも、まずは町民の声に耳を傾ける。そんな町民ファーストの姿勢が印象的であった。

かわづっこひろばから始まる改革

子供や子育て世代を支援するために開設されたかわづっこひろばだが、今後はその利用の幅をさらに広げていきたいと河津町は考えている。

具体的には、かわづっこひろばと同じ敷地内に立てられる社会福祉施設に通う高齢者と交流できるイベントの開催などを検討しているとのこと。その背景には、高齢者から「子供と交流できて楽しかった」という声が上がった、交流イベントがあるようだ。

実際、子供の声には“力”があると思う。取材当日、かわづっこひろばではお誕生日会が開催されていたのだが、子供たちが笑顔で声を上げていると、胸が温かくなるような、そんな感じがした。

また、今回の取材を通して「高齢者を支える町づくり」というのは、必ずしも制度や経済面で実現しなくてもいいのではないだろうかと思った。子供たちの笑顔が与えてくれる、「楽しい」「心が温まる」と言う感情を高齢者の毎日に届けるのも「高齢者を支える町づくり」の一環といえるのではないだろうか。

人口減少・高齢化というひっ迫する町の課題をよく理解し、受け入れつつも、「みらいは明るいんだ」と、町民は町の可能性を感じているようであった。

過疎地域指定という課題と真摯に向き合いながら、自分たちの町を守りたいと強く思っている。その姿を見て、河津町のみらいを見届けたいと、そう思った。

【参考文献】

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