【今回の取材地】
東京都 / 大島町
面積:90.76㎢
総人口:6,631人
人口密度:73.1人/㎢
隣接自治体:利島村など
(2024年2月1日時点)
人口約7000人の海に浮かぶ東京都大島町。「消滅可能性都市」に認定され、まちの衰退が不安視される中、内地から伊豆大島へ移住する人たちが増えている。その1人が、2020年10月より大島町の地域おこし協力隊として着任した神田遼さん。農産物直売所ぶらっとハウスに勤務しながらジオパークガイドやシェアハウス、ゲストハウスの運営を行っている。
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旅行会社からの転身、きっかけは「直感」
学生時代にアイルランドへ留学していた神田さん。その経験を活かし、旅行会社で社会人としてのキャリアをスタートさせた。新卒から5年間従事し、将来のキャリアプランを考えようとした際に、新型コロナウイルス感染症が流行。旅行業界は大打撃を受けた。神田さんの会社も例外ではなく、これまでと同じように働くことは難しくなった。
誰もが目に見えない恐怖におびえ、いつ収束するかわからない事態に戸惑う日々が続いていた中で、神田さんは「これもいい機会だ」と、転職を決意。取材中も神田さんは明るく、前向きな性格だと感じたが、皆が悲観的になっている状況を好機と捉えて新たな一歩を踏み出す姿は、とても逞しく見えた。
無数の選択肢がある中で、神田さんが大島町への移住を決意したのは直感だったとか。元々働く場所を変えたいという思いを持っており、地方の求人など幅広く探していたところで、「地域おこし協力隊」の存在を知った。その時たまたま目に留まった大島町の協力隊の求人。「大島町へ行ってみたい」と、すぐに履歴書を送ったそうだ。
思いが届き、島唯一の地域おこし協力隊として大島町に赴任した神田さん。じつは、赴任するまで大島に行ったことがなかったそうだ。そのため、来るまでは「インフラはどうなっているのか、内地のと生活にギャップはあるのだろうか」と心配していたとのこと。しかし、そんな心配とは裏腹に、道路はきれいに整備され、賑わいを見せるお店があった。
もとより人と関わることが好きだったという神田さんだが、大島に来た当初から「コミュニティになじめないのではないか」という心配も一切なく、むしろ新しい出会いや人脈づくりにワクワクしていたんだとか。地元の人も観光客の集まる「もももも」という喫茶店に毎日通ったところ、徐々に知り合いが増え、仲間もできたという。
地域おこし協力隊として農産物直売所「ぶらっとハウス」の運営をすることも、島のコミュニティになじむきっかけになったという。神田さん以外の従業員は地元大島の人たち。ここで月に20日間勤務することで、地元の人たちとの関わりが密になっていったそうだ。
神田さんが運営するシェアハウス「クエストハウス」には、住民だけでなく、地域の人も集まりイベントやBBQが開催されている
協力隊卒業後を見据えた種まき
2023年9月をもって地域おこし協力隊を卒業する神田さん。任期満了後も大島町に住み続けることを決めている。
その理由を、「この島でできることはたくさんあるし、島にいるからこそ出会える人がいると思うからです。大島にはコンビニや外食チェーンはなく、不便さを感じる人もいるかもしれません。でも、そんなことが気にならないほどに魅力的な側面が大島町にはあります」と、“これからもこのまちで暮らしたい”と思う理由を語ってくれた。
魅力あふれる大島町を、より多くの人に知ってもらいたいと思った神田さんは、移住から3年間、さまざまな種まきをしてきた。
例えば、ジオガイドの認定取得。大島は島自体が火山島であり、活火山である三原山を中心に自然が形成されている。1986年に噴火した跡が残っているだけでなく、15,000年の間に積み重ねられてきた地層を見ることができる。大島へやってきた人に、背景と共に島の魅力を伝えるべく、伊豆大島ジオパーク認定ジオガイドとして活動している。
他にも、シェアハウスやゲストハウスの運営を行っている。「島とのつながりをつくる場所」をコンセプトに、関係人口の創出に取り組んでいる。「島の生活」に興味のある人へ中長期的に部屋を貸し出したり、観光で島を訪れた人を迎え入れたり、時にはイベントを開催してシェアハウス・ゲストハウスに滞在する人以外も巻き込んでいる。その背景には、神田さん自身が移住してきたからこそ分かる「こんなのあったらいいな」という視点がある。
一般的な東京都のイメージとは違うかもしれないが、大島町も東京都。そのため、公立高校の職員やそのほか都の施設の職員は、配属のために大島へやってきたという人もいるのだ。全員が全員コミュニティづくりを得意なわけではないと理解しているからこそ、気軽に参加できるイベントが大島での生活を充実させる手助けになると神田さんは考えているのである。
「お風呂がかわいいんです」と、古民家の趣を活かしてリノベーションしたゲストハウス「Stay Do」を新たに開業
「リピーターの多い島」を目指して取り組むファンづくり
神田さんは大島を「リピーターの多い島」にするという目標を掲げている。
リピーターが増えることで、まちの活性化につながると考えているからだ。そのために、ジオガイドの認定やシェアハウス「クエストハウス」・ゲストハウス「Stay Do」の運営などをしてきた。
もちろんそこから移住・定住する人が増えるのは万々歳。しかし、都内の利便性に代わるものはないというのは、神田さん自身が移住してきたからこそよく理解しているし、神田さんの挑戦も始まったばかり。種をまきをしたものを、5年後、10年後の大島を見据えて芽を育てるフェーズとなった。
「リピーターが増えることで、島の活性化につながると思うんです。だからこそ『島と人がつながる場所』を提供して、ファンづくりに貢献したいんです」。
神田さんの冒険は、まだ始まったばかり。
「島と人がつながる場所」が花開き、ファンで賑わい、より活気を見せる大島の姿に期待を寄せるばかりだ。