手仕事のいま
更新日:2024年05月23日

山梨の知らぬ地に眠る宝|ハンコ発祥の地で、人生の分岐点となる字を彫る男

ライター:
yamanashi-ichikawamisato-hanko

【今回の取材地】

山梨県 / 市川三郷町
面積:75.18㎢
総人口:13,857人
人口密度:184人/㎢
隣接自治体:富士川町、身延町など
(2024年1月1日時点)

山梨県の「六郷」は、印章(ハンコ)の生産量日本一として知られている地域である。

もともと独立した六郷町という地域だが、平成の大合併によって三珠町(みたまちょう)および市川大門町(いちかわだいもんちょう)の3町と合併し、市川三郷町として生まれ変わった。

今でも昔からこの地に住む人は、地元への愛を込めて六郷と呼んでいる。

そんな六郷で印章を彫り続けているのは望月煌雅(こうが)さん。経済産業大臣指定の伝統工芸士として、数々の印章を世に残してきた。

印章とは、紙で残すことが必要とされてきた日本社会で、永きに渡り正式な約束の印として使われてきた。しかし、ここ数年の時代の潮流として、デジタルベースの電子署名の使用などが加速度的に増加してる状況は、印章業界にとっては大きな痛手となっている。

しかし、望月さんは黙々と、粛々と、静かに受け継がれてきた工房で、ひとり彫り続ける。

「人の記憶や人生の分岐点は大切である、という価値観は変わらない。その大切な瞬間にハンコを使う人の想いが存在し続ける限り、その想いに対して魂を注ぐことは辞めてはならないし、そんな仕事が好きだ」

使う方の気持ちを想像して、手を動かし続ける。小気味の良い音が聞こえてくるこの場所から、人の大切な記憶もまた、刻まれていくのである。

関連記事