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あの日の味 まちを拓く人 試みの交差点
更新日:2024年09月19日

若者の乾物離れを食い止めろ #1|生産量日本一の大分が挑む、 乾しいたけ再興の物語

ライター:
oita-shiitake

【今回の取材地】

面積:6,340.73㎡(大分県全体)
総人口:1,097,477人(大分県全体)
人口密度:173人/㎢(大分県全体)
(2023年8月1日時点)

乾しいたけの現在

最後に乾しいたけを食べたのはいつだったか。思い出せない人も多いのではないだろうか。

かつては和食文化の定番であった乾しいたけ。近年、外食化や食文化の多様化と共に、乾しいたけの消費量は低迷している。このように時代が変化する中で、食べる機会が少なくなった乾しいたけだが、実は化学的にも証明されたうま味の宝庫なのである

3大うま味成分を構成する「グルタミン酸」「グアニル酸」「イノシン酸」。しいたけは元より「グルタミン酸」を含んでいるが、乾燥させ、水戻しをすることで3大うま味成分の「グアニル酸」が生成されるという特徴がある。3大うま味成分のうち2つを含んだ食材が乾しいたけだ。元々「グアニル酸」を含んだ食材は限られているので、「グアニル酸」と「グルタミン酸」の両方を含んだ乾しいたけは、化学的にも証明された「うま味の宝庫」だ。

今回のCRAFTRIPの舞台は、そんな乾しいたけの生産量日本一を誇る大分県。

諸説あるが、大分県はしいたけ栽培の発祥地ともいわれている。今から約400年前、豊後国佐伯藩千怒の浦(津久見市)で、源兵衛という老夫が炭焼き用の材木にしいたけが生えているのを発見。そこから人工的な栽培を思いついたのが、しいたけ栽培の始まりといわれている。

乾しいたけ生産量日本一を支える背景には、豊かな自然がある。県の面積のうち約70%を森林が占める大分県。原木しいたけを育てるために必要なクヌギも多く樹林されており、しいたけを栽培するためには絶好の地なのだ。

また、その品質にも定評があり、2022年に第69回目が開催された「全国乾椎茸品評会」では、団体の部で23大会連続、55回目の団体優勝を果たした。つまり、大分県は名実ともに「日本一の乾しいたけの生産地」なのである。

しかしながら、冒頭で述べたように、乾しいたけの消費は年々減少傾向にある。生産量に関しては、ピークを迎えた1985年の12,065トンから約5分の1の2,302トンにまで減少した(2020年調査時点)。また、物価高が続く今日においても、乾しいたけの価格は横ばい。むしろ、昭和40年ごろからその価格は大きく変わることなく流通しているのである。

参照元:大分県庁「乾しいたけ生産量等の推移(グラフ)」(2023年5月8日参照)

https://www.pref.oita.jp/soshiki/16060/datehoshi.html

生産量・消費量の減少、生産者の高齢化や市場の停滞。課題が渦巻くこの業界において、乾しいたけは今後も減少の一途を辿るのではないかと懸念されている。この状況を打破し、再興しようと立ち上がった大分県の施策の1つが、乾しいたけのブランド化だ。

時代の変化から見る、乾しいたけの流通の変化

うまみだけの1つ、「ゆう次郎」。優しい香りとしっかりとした歯ごたえが特徴

2020年より、大分県は「うまみだけ」という乾しいたけのブランドを開始。

日本でも珍しい、きのこのみを研究する「農林水産研究指導センター林業研究部きのこグループ」を主体に、8品種の「うまみだけ」をうま味 / 香り / 歯ごたえの3項目5段階に分け、それぞれの特徴と共に相性のいい料理を明示。消費者の好みに合った乾しいたけを手に取ってもらえるよう、乾しいたけは姿を変えつつある

参照元:うまみだけHP https://www.oita-shiitake.com/

姫野一郎商店HP https://shiitake-himeno.co.jp/knowledge/1674

本来、他の食材と同様に、乾しいたけも品種によって味や食感にそれぞれ特徴がある。しかし、これまで冬菇(どんこ)や香信(こうしん)といった品柄分けのみを行い、品種分けせず、一律に「乾しいたけ」としていた。そのため、消費者の手に渡った際に「ものによって風味が違う」「水戻しの時間に差がある」といった課題が生まれていた

こうした課題を解決し、多彩な乾しいたけの味わいを分類して明確にすることで、消費者の好みに応えられるようにしたのが「うまみだけ」である。

そもそもしいたけ栽培は、2年以上もの歳月をかけて行う。クヌギなど、しいたけ栽培に適した「原木」を伐採し、しいたけの種となるしいたけ菌を木に植菌。そこから2年間、しいたけ菌が原木にまん延するまで寝かせる。菌がまん延した原木を組み合わせてしいたけの発生に備え、収穫時期を待つ。ところが、2年という期間をかけたしいたけが条件によっては傘が開き、価値が変わってしまうこともある発生してから収穫までは時間との戦いなのだ。

参照元:大分経済新聞 https://oita.keizai.biz/headline/1482/
東京都林業事務所 https://forestry-office.metro.tokyo.lg.jp/study/shiitake/index.html
大分県椎茸振興協議会 https://www.oita-shiitake.com/

周期に合わせて作業をするシンプルな栽培手法に聞こえるかもしれないが、全くそうではない。20kgほどある原木にしいたけ菌を植菌する工程も、その原木を収穫しやすい形に組み立てるもの、一番おいしい時期を逃さずに収穫するのもそれぞれ生産者の苦労があってこそ

大分県椎茸農業協同組合がこの苦労を理解しているからこそ、これまで乾しいたけは冬菇や香信といった品柄分けのみ行い、栽培から出荷までの工程はシンプルだった。しかし、うま味・香り・歯ごたえで異なる乾しいたけの味わいを消費者に届けるために、これまでの栽培工程を大きく変化させた

生産者は、原木に植菌した時点で原木を仕分けるようになったのだ。ほとんどの生産者は複数の品種を栽培しているが、どの原木にどのしいたけ菌を植菌したのかを管理し、分けて出荷することに。言葉で述べるのは簡単ですが、限られた時間の中で収穫をしなければならないしいたけ栽培において、品種別に出荷するのは、これまでの何倍もの苦労がかかるのである。

こうした生産者の努力によって、私たちは好みに合った乾しいたけを手に取ることができるようになった。

乾しいたけのこれから

乾しいたけの食べ比べセット「CONON」。パッケージからこだわり、乾しいたけのイメージを一新

2020年に商品化された「うまみだけ」。まだまだ全国的に根付いているものではなく、しばらくは認知拡大に取り組んでいかなければならない。しかし、今後うまみだけは大分県産だけでなく、乾しいたけ業界全体の復興の兆しとなるのではないだろうか。

企業側の視点に立ったプロダクトアウトから、消費者のニーズに寄り添ったマーケットインへと、商品開発は時代と共に変化したといわれている。乾しいたけも、生産・出荷のしやすさだけでなく、消費者の好みやニーズに寄り添った製造、販売をするよう変化した。おいしいのは当たり前その上で、どうおいしいのか、どんな料理に合うのかを明示することで乾しいたけの本当のおいしさを届けることに注力しているのである

生産量日本一の大分県が始めた、乾しいたけ再興の物語。

近年、海外で和食・健康食のブームが起こり、日本の乾しいたけへのニーズが高まっている。日本国内でも、乾しいたけの良さが再認識され、大分県がかつての生産量・消費量を取り戻す日が来るのも、遠い未来の話ではないかもしれない。

【参考文献】

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