まちを拓く人
更新日:2024年09月19日

 野菜作りから始める改革、世界を元気にする仕事

ライター:
ibaraki-kasumigauura

【今回の取材地】

面積:156.60㎡
総人口:39,207人
人口密度:250人/㎢
隣接自治体:石岡市、土浦市など
(2023年12月1日時点)

「野菜作り」という挑戦

茨城県かすみがうら市出身の松本浩司さんは、「かすみがうらの農業から日本、そして世界を元気にしよう」と奮闘する農家の一人

松本さんは現在、インゲン、ブロッコリー、ナスを中心に、さまざまな野菜を育てている。茨城県はレンコンの生産量が全国一位だが、あえてレンコン農家にならなかったのは「地域環境にとらわれない野菜作りをしたかったから」と言う。

かすみがうら市にあった作物を育てるのではなく、「農業を広める」ということを前提に扱う作物を選定しているようであった。

今回お話を伺った、まっつん農園代表の松本浩司さん

子供たちの笑顔を守る仕事に就きたい

地元のかすみがうら市を出て、東京で大学生活を送っていた松本さん。大学1年生を終えて何か新しいことに挑戦してみたいと、海外ボランティアに参加し、カンボジアを訪問。その時に現地の子供たちのキラキラした笑顔を見て、「この子たちのためになる仕事がしたい」と思うようになった。また、その後に訪れたベトナムで、改めて日本の野菜のおいしさや食文化の豊かさを実感し、自分も農業に携わりたいと考えるようになったそうだ。

帰国後は日本で就職活動を開始。初めのうちは、商社や農協への就職を考えていた。しかし、もっと直接的に子供たちの笑顔を守るような仕事につきたいと思い、松本さんは農家としての道を志すことに。

当時、周りの友達は一人として農業に就く人はおらず、「やめたほうがいい」と反対の意見も多かったと言う。それでも農業への道を選んだのは、「反対されるほうが燃える」という、松本さんの負けず嫌いもあったそうだ。

意思を固めてからは、地元で知り合いの農家さんの手を借りながら農業を開始。自然が相手なので、計画通りに事業を進めることができない難しさを感じつつも、周りのサポートを受けて松本さんはこれまで10年間農業を続けてきた。

また、最近の新規就農へのファーストステップは、私たちがイメージしている何倍も簡単なもののようだ。農業界ではTwitterをはじめとするSNSの利用がトレンドで、新規就農のお悩み相談から、市場の動向など、農業をするにあたって必要な情報が日々発信されている。

松本さんも情報発信をしている一人で、新規就農者や希望している人たちが抱える問題に対してアドバイスを発信し、悩める人たちの後押しをしている

栽培しているブロッコリー。葉は、想像以上に大ぶり

「恵まれていると思う」

松本さんは農業を営んでいる今の状況をそんな風に表現していた。初めに助けてくれたかすみがうら市の農家さんが、「こんな若者が農業を始めたから、助けてやってくれ」と周りに声をかけてくれたからこそ、畑をすぐに借りられたし、農作機械を譲ってくれるという幸運にも恵まれたとのこと。

3K(きつい、汚い、危険)とも言われる農業で、続けることが難しくなった時期もあったそうだ。ただ、「大変なことがあっても、恵まれた環境で農業ができていることや、たくさんの方が応援してくれることに後押しされ、ここまで続けることができた」と松本さんは言う。

また、松本さんは「大変だ」という印象が先行してしまいがちな農業を、「楽しく、自由でかっこいい」というものに変えていきたいという野望も抱いている。

収穫時期を控えたブロッコリー畑は青々としていた

「一から育てて出荷まで手掛けることが楽しみであり、苦労して育てた分、うまく育てることができた時の喜びはその何倍にもなる」

自然が相手で、力仕事が中心の農業は、楽なものではない。それでも、松本さんが楽しんで農業をすることができているのは、自分の作った野菜を実際に手に取ってくれる人の存在があるから。これまで卸しをメインとしていたところ、販路をECまで拡大したことで、消費者と直接やり取りする機会が増え、その喜びを強く実感しているようだ。

食べた人が、笑顔になりますように

松本さんは今後、自分がつくった野菜を食べてもらうだけでなく、農業を通じて「食べる」ことの喜びや楽しさを教え、子供たちの笑顔を守っていきたいと考えている。そして、この目標を実現する上では「かすみがうら市で農業をする」ということがポイントになっているようだ。

松本さんは現在、かすみがうら市4Hクラブ(農業青年クラブ)の会長を務めており、そこに集まる若手の農家さんは、農業から地域社会に貢献しようと活動している。周りを巻き込んで「自分たちの力でかすみがうら市を、農業を元気にするんだ」と、邁進する姿を見ると、これからのかすみがうら市の未来が楽しみでならない。

「一人で成し遂げるのが大変な農業であっても、周りの協力や地域の特性を糧にすることで、その可能性は何倍にも広がる」のだと松本さんは言う。そして、これがかすみがうら市で農業をする魅力であり、強みだそう。

⸺食事は皆で食べて、楽しいものなんだ

そんな言葉も今では、新型コロナウイルス感染症のまん延による黙食や、共働き家庭における孤食が珍しくなくなり、普遍的なものではなくなってしまった。

「野菜を育てて終わりではなく、農業を通じて人の笑顔をつくる仕事をしたい」。そんな風に語る松本さんは、情熱にあふれており、私の胸も熱くなった。そして、松本さんの思い描くこの未来は、思いのほか遠いものではないと思った。

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