【今回の取材地】
面積:729.6㎢
総人口:4160人
人口密度:5.7人/㎢
隣接自治体:池田町、本別町など
地方の過疎化や少子高齢化に伴う人口流出に歯止めをかけるべく、総務省によって「地域おこし協力隊」の制度ができたのは2009年。年々増加を続け、2022年度は過去最多の6447人となり、2023年8月の全国市長村サミットで、松本総務大臣は「2026年度には、1万人を目標にする」と掲げた。
隊員は3年間、さまざまなテーマで地域活性化に関わるが、定着率は自治体によってさまざま。過疎が進む地域で、起業してビジネスを成功させるとなると難易度が高いことは言うまでもない。
そんななか、北海道十勝にある人口4,200人の浦幌町では、協力隊の制度も活用してここ数年、20代人口が転入超過になり、起業も活発になる状況が続いている。
町長に話を聞いた。
地域を次世代につなぐことを官民一体で
2023年5月、16年ぶりに町長が交代し、役場の職員として町政に長らく関わってきた井上亨(49)新町長が誕生した。また、町議選では竹田さんなど26歳から31歳までの女性議員が3人もいずれも初当選し、一気に若返った。
まず、浦幌町の地域おこし協力隊にはどのような特色があるのかを聞いてみた。
「町では、2013年に地域おこし協力隊の制度を導入して30人近くを受け入れてきましたが、当初から隊員を役場ではなく、地域の課題解決や振興に取り組む民間事業者に配置してきました。独自性の高いミッションが多く、隊員を役場内に置く必要がなかったのです。その結果、逆に活動の自由度が増して、配属企業などを通じて、地域とのつながりが深まったと感じています。町に、〝お父さん、お母さん〟ができた方も多く、定住につながる要因になっているのではないでしょうか」と、分析してくれた。
〝自らの住む地域は自らが創る〟という意識
小松社長から、バトンを渡そうとする文化の話も出てきたが、町に若者の活気に溢れ、起業も活発になっている要因はどんなところにあるのだろうか。
「2007年から、地域を次世代につなぐことを官民一体となって進めている〝うらほろスタイル〟という取り組みがあります。人口減少が避けられないなかで、持続可能な地域づくり、〝自らの住む地域は自らが創る〟という意識改革に取り組んできました。町民だけで全てやろうとするのではなく、東京の企業人の副業やボランティア制度も活用しながら、地域課題の解決に協力してもらっていますが、近年、その成果を実感しています」。
この〝うらほろスタイル〟の独自政策を一貫して続けてきた結果、浦幌町は〝教育に強い町〟〝持続可能なまちづくりに挑戦する町〟として、文化省や総務省、北海道庁などからも注目されているそうである。
若い人たちがまちづくりに積極的なのは町の魅力
「リペリエンスのみなさんのように、若い人たちがまちづくりの意識を持って、頑張ってくれているところが浦幌の魅力の一つだなと感じています。竹田さんをはじめ、若いみなさんが政治に興味を持って積極的に関わってくれるというのは、全国から見ると逆行しているかもしれませんが、とても良い流れですよね。そういうところも大事にした上で、次の人がまた新たな動きがしやすいように、いろんな声を拾い上げて、若い方も、年配の方も、みんなが住みやすい町にしていきたいですね」
地域おこし協力隊とやってきて起業した若き小松社長が、町の求人事業を展開しながら、気軽に外から訪れるゲストハウスを開き、さらに今度は、地域住民とのコミュニティの場を作り出そうとしている〝多動力〟に驚きがあった。全てがビジネスとして成立し、町の課題解決につながっていて、バトンを次に渡すために逆算しながら動いているように見える。町長、行政をはじめ、町全体でサポートするあたたかさも感じた。
一次産業が中心で、人口減少は進み、巨大な企業もなく、お世辞にも空港からのアクセスも良いとは言えない町である。次世代へバトンを渡す風土が根付いた町の挑戦に中央官庁のほか、大企業も注目して企業版ふるさと納税も好調のようだ。浦幌町の取り組みは他の自治体にとって大きな示唆に富んでいるのではないだろうか。
井上亨さん:1974年、帯広市生まれ。帯広三条高校卒業後、浦幌町役場に入庁。まちづくり政策課まちづくり推進係長、町民課課長補佐などを経て、2023年4月の浦幌町長選挙に出馬し、無投票で初当選。5月より浦幌町長に。